2007年11月28日

何かを手放してこそ

誰も傷つかないビジネス

 ヒマラヤをトレッキング中のマイクロソフト社員ジョン・ウッド(1964年1月
29日生まれ)がネパールの子どもたちに本を寄贈するアイデアを得た夜、彼の顔
には常に大きな笑み(a big grin on my face)があった。

一泊2ドルの宿で夕食のテーブルについたときも笑みは顔に張り付いたままだっ
た。隣に座りあわせたカナダ人女性が、いったい何がそんなに楽しいのかと、話
しかけてきた。ジョンは迷わず、この国の子どもたちに本を寄贈するプランにつ
いて語った。すると、彼女は本の輸送コスト、税関手続き、関税、などの考えう
るマイナスの可能性についてすかさず指摘し始めた。ジョンは「できないこと」
について語るのは好まなかったので、話題を転じた。

夜、ベッドに入って、キャンドルの灯のもと、持ってきた本を読み始めた。
本は、ダライ・ラマの著書だ。ダライ・ラマは言う。

「何かを手放してこそ、手にすることができるものがあります。それが、
happinessです」

ジョンは思った。

「物質的成功は何になる? たまたま自分は若くして財政的にはサクセスを得た。
しかしそれは良い時を得て、良い会社(マイクロソフト)にたまたま居合わせた
だけであり、稼いだお金が自分の内面を成長させたとは思えない」

ジョンは、マイクロソフトを辞め、ストックオプション200万ドル(約2億3,000
万円)を元手とし、さらに出資者を募ってNPO『Room to Read』
http://www.roomtoread.org/ を設立した。1999年のことだ。

ジョンの出資依頼にこたえたのは高度専門職につくビジネスパースンたちで、彼
らは週60時間働くが、そこまで献身するからには、何か意義のあることに自分の
稼いだお金を使いたい、という思いを共通して持つ。ジョンいわく、彼ら「企業
難民」のお金の使われ方も、新しい時代を示している。

以降8年間、ジョンは企業家スタイルでNPOを「経営」、即ち、「結果がすべて」
のポリシーのもと、数値目標を立て、次々とクリアしていくことで、自らの実現
したい価値を浸透させていった。その速度はめざましく、例えばスターバックス
が創業8年間で1,000店舗だったのに対し、ジョンの設立した図書館は3,800、
3.8倍もの高速だ。

ジョン自身は年収10万ドル程度で、飛行機は友人のマイレージを利用している。
家もまだ借家だ。しかし、人生の充実度は格段に向上した。

このような、「誰も傷つかないビジネス」のありかた。

これこそが、「ゼロ・サム、誰かがトクすれば、誰かがソンする」「誰かを傷つ
けて自らが太る」(例えば、建設業界、自動車業界、家電業界における元請、下
請の関係、などその典型的なものだ)のような過去の遺物ビジネス(ビジネス
1.0、別名・博物館ビジネス、歴史遺産ビジネス)にとってかわる、未来のビジ
ネスの姿を表現している。

参考:John Wood, Leaving Microsoft to Change the World, Collins
p.12-14, 2006
邦訳が出ているようです。『マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕
はこうして社会起業家になった』(ランダムハウス講談社)

COURRiER JAPON Dec.2007 p.98-99


阪本啓一(株式会社JOYWOW)
(Surfin'2007)




同じカテゴリー(サプリメント)の記事

Posted by やんち at 00:01│Comments(0)サプリメント
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。