一日の違い
339日目
天下を取った織田信長は、一つのお触れを出した。「信長と同年同月同日同時に生まれし者を尋ね出し給ふ」と、自分と同じ日、同じ時間に生まれた男を探し出して会おうとした。
一人の男が見つかった。
見れば、極貧の男である。信長は言った。「わしは天下を取り、おまえは極貧。同時に生まれても、
運命がだいぶん違うな」。ところが極貧男は言った。「いえ、上様と、わたしは大差ありません。ただ一日の違いです。」。極貧男がそう答えたので、信長は聞いた。
「その一日とはなんじゃ」
「天下を持っても、貧しさに極まっても、それは昨日までの過去のこと。上様とて明日はわかりませぬ。今日一日のみ、上様は天下の主として楽しまれ、わたしには極貧に苦しんでいるだけです。」
結局、人間は今だけ生きている。これを聞いて、信長は一瞬がくぜんとしたが、やがて満足そうにうなずき、男にたくさんの衣服金銀等を与えて帰したという。
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